気違いに刃物
妖刀という響きに憧れる。
それは人を殺めるためだけに生まれてきたもので、所持しているだけで人を切り裂きたいという衝動がどこかから湧き起こってくるものだとか。
そういう危険なものに元来引き寄せられる性向が人間にはあるようだが、多分一旦目指してしまうと元の安穏とした世界には戻ってこられないのだろう。
艶めかしいその輝きは刃物の特権だと思う。
押しつけるだけで切れそうな、それでいて動かさなければ皮膚を切り裂くことのないその鋭い刃は、その身の内に凝縮された危険性を秘めていて、それはそれは素敵な存在だ。
艶な刀紋が光を受けて輝く様は、画像で見てもそれなりに魅力的に見える。
それなら実物はきっと美しいに違いないと僕は夢想する。
本当のところを云えば日本刀が一振り欲しい。
外国製の削られた無骨な刃物とは違う、強靱さとしなやかさを夢見て鍛えられたそれが。
そして美術品ではなく、実用に耐え抜くだけの強靱さのある業物を。
しかしそんな金はどこにもないし、あったとしても試し切りを野菜でするわけにはいかないから多分買わないだろうが。
そう言いつつ刀剣類(もちろん刃の潰してある単なる美術品だ)の新聞広告を蒐集しているのは僕の未練の証拠だ。
日本刀は諦めた。
だからせめて、綺麗に輝く刃物を買おう。
なるたけ刃渡りの長い奴を。
そうして僕が手に入れたのは結局のところ包丁だったりするのだが。
それはそれでなんとなく妖しい魅力を秘めているかな、と勝手に思い込む事にした。
包丁だと云ってもなかなか良いものなのだ。
刃渡り約21センチ、一応手打ち。
値段は買った瞬間に忘れることにしているので覚えていない。
銀色と呼称される金属光沢の、それはそれは魅力的で実用的な我が恋人だ。
僕は刃物を見ていると何だかドキドキしてくる(ある意味)変態である。
寮住まいなので彼を使ってやる機会など滅多にない(そう、果物の皮を剥いたりするだけの極めて屈辱的な使用法だ)というのに、時折料理とは全く関係ないところで取り出してニヤニヤ口許を緩めながら眺めていたりする。
そんなときに考えていることはただ一つ、
ああ、魚捌きたいなぁ
だ。
当に気違い。
2枚でも3枚でもいいから鯖とか秋刀魚とかをわしわしと。
あぁついでに思う存分振り回してみたいなぁ、とか。
それでも生きている何かを切り裂きたいなぁとか思わないだけマシなのだろうが、たぶん刃物を眺めているときの僕は十二分に危険だ。
たまにカッターやら鋏等の安物と比べてみては何だか勝ち誇ったような気分に浸ってみたりもする。
……やっぱり危険だ。
因みに刃物の切れ味は、その刃を皮膚に──指先がいい──押し当ててみれば判る。
くれぐれもその際押したり引いたりしないように。
(自傷癖がある人は万が一の事を考えてやっちゃいけない、きっと切れ味を試したくなる)
それが良い物であれば、きっと鋭いという言葉を実感できるはずだ。
あぁ、刃物万歳。
本日の蒐集物
・ファンタジアバトルロイヤル
・ひもろぎ守護神[ガーディアン]1〜3