……
去年の冬の話だ。
風に身を竦めながら帰路につく。
駅はすぐ近く。
風は強い。
ざわめきが流れていく中で、風に乗って微かに聞こえる、知らない学校の吹奏楽部の練習の音。
多分聞いたことのある楽器の音。
空はまだ日が落ちる前で明るい。
刷毛で引いたような薄い雲が空を染めている。
周りを人が流れていくが、僕の隣には誰もいない。
ふと胸が苦しくなった。
唐突に、
あぁ、もうあの場所には帰ることができないのだとそう思って。
切なくなるのでも苦しくなるのでも侘びしくなるのでもない、ただ掻き毟りたくなるような喪失感があって、
独り取り残されたような気分になる。
反省はしても後悔はしない主義だ。
何をしても今を生きるしかないのだから、過去を悔やむ暇があれば前を見ればいい。
過去から学ぶことは重要だが、過去をただ懐かしむのは意味がない。
だが、きっとそんな理屈でこの気持ちは満たされない。
鮮烈に生々しい「ないものねだり」なのだ、これは。
どれだけ求めてもそれは手の届かないところに行ってしまったのだという確信だけがあって、
これが「郷愁」というのかと独りで勝手に解釈した。
きっともっと適切な言葉があるのだろう。
だが、未だ嘴の黄色い僕は、これ以上の言葉を見つけられない。